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Copyright 2012 「溶ける魚 -つづきの現実」実行委員会

 

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■展覧会趣旨文

  

 アーティスト企画によるグループ展「溶ける魚 -つづきの現実」を開催いたします。本展には10名+1組の現代美術作家が出品いたします。 

 

 本展のタイトル「溶ける魚」は、フランスの文学者アンドレ・ブルトンが1920年代に執筆した小説の題名から引用しています20世紀の最も重要な芸術思想のひとつであるシュルレアリスムを代表する文学作品として知られる『溶ける魚』は、自動記述という実験的な手法によって書かれています。前後の論理的な脈絡を無視した意味不明な言葉・文章の連なりは、「意味」の束縛から読む者の精神を解き放ち、自由で豊かな、美しいイメージの世界へと誘います。「溶ける魚」という言葉そのものが、論理的なつながり=意味からの解放を象徴した言葉だといえるでしょう。 

 シュルレアリスムは、戦争や経済恐慌により憔悴した20世紀初頭のヨーロッパの精神状況を背景に、機械、科学、技術、それらの前提となる論理、理性といったものを否定するダダイスムの思想を引き継いだ芸術運動でした。ただし、シュルレアリストたちはダダイストのようにただ理性を否定するだけにとどまらず、無意識や夢、本能といった内なる領域の探索に乗り出しました。そして彼らはそこに、新たな美、豊かなイメージの世界を発見することになるのです。 

 

 シュルレアリスムが生まれた当時の時代背景と、今私たちが生きる日本の社会状況には、いくつかの奇妙な符合を指摘することができます。東日本大震災とそれに起因する原発事故、また金融危機と長引く不況、政治の不毛……産業革命とIT革命を重ね合わせることも可能でしょう。私たちは今、これまで信じてきた価値観を否応なしに問い直さなければならないような、不条理な現実に直面していると言えます 

 非現実的な筋書きがそのまま現実になったかのような時代状況の中で、美術作家は何を考え、何をなすべきなのでしょうか? 社会的な活動に身を投じたり、社会的なメッセージを込めた作品を提示したりするのではなく、自らの生み出す作品そのものによって真摯に現実と向き合うこと――これは、技法も作風もスタイルも様々に異なる本展の出品作家全員に共通する姿勢です。まさにこの点において、20世紀ヨーロッパのシュルレアリストたちの態度には参考にすべき部分が多くあります。

 

 本展で提示される作品はいずれも、現実から遊離・逃避した空想や幻想でもなく、かといって現実そのものの是認や肯定、複製でもありません。展覧会タイトルの「つづきの現実」という言葉には、作品が立つべき位置の理想を託しました。作家自らが精神の内奥を見つめ、そこから汲み上げ何かに形を与えた表現として、作品を通じて「つづきの現実」を提示することが本展の大きな狙いです。

「つづき」という言葉には、シュルレアリスムという美術史の金字塔に向き合い、その意味を今一度探り直し、その「つづき」としての自己に意識を向けてみようという、本展に臨む私たち作家の意思も込められています。日頃シュルレアリスムを意識して制作に取り組んでいる作家も、またシュルレアリスム的な作品を制作している作家も本展には含まれていません。しかしながら、コラージュやデペイズマン、フロッタージュなどの造形手法から、今や「奇妙」を意味する日常語として定着した「シュール」という言葉にいたるまで、シュルレアリスムの多大な影響は現代の日本においてもその効力を強いままに維持しています。本展は、参加作家ひとりひとりがこの大きな美術史上の存在と今一度対峙し、それをきっかけに自らの制作を新たな目で再確認するための場でもあります。

 

「溶ける魚」「シュルレアリスム」というキーワードと出品作家それぞれの作品、また作家の作品同士が様々に化学反応を起こし、鑑賞者の心の中に「つづき」の物語を紡ぎだすこと、さらには美術史の「つづき」としての現代美術の魅力を鑑賞者に開示する機会となれば幸いです。

 

 

 

「溶ける魚 -つづきの現実」実行委員会(代表 衣川泰典、高木智広)